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本書の概略
 
 いわゆる電源(電力を発電,節電,または貯蔵する装置)というものを考えた場合,「規模」は,その経済的価値を決定する要素の一つになる。本書は,207の具体例をもってそれを解説している。例えば「分散型」電源は,システム設計計画や,電力設備(特に送配電網)の建設と運用,さらに電力供給に伴うサービスの内容を改善し,社会に与えるコストも回避することができるので,たいていの場合,経済価値は上がる。時にはそれが10倍程度になることも多い。
 経済価値が実際にどれだけ向上するか。それは,当然のことながら使用する技術,場所,タイミングに大きく左右される。これらの条件はきわめて複雑にからみあっているため,あらゆる利用法を考えたところで,経済価値がどの部分でどの程度上がるかをはっきりいうことはできない。しかし,非常に多くのケースで,経済価値の大きさが投資判断に変化を与えることになるのは事実である。最新の天然ガス発電所と風力発電所を取り上げてみると,経済価値の大きさは両者のコスト差を埋めて余りある。系統に連系している太陽電池の実施例をみると,現時点でも経済性が出ていることが多い。こうした事実は,分散型電源の売られ方,使われ方を変え,新たな政策やビジネスチャンスも現れて,市場に巨大なメリットが生まれることになるだろう。
 電力産業は根本的かつ広範な変化のまっただなかにあるといえるが,地域・近隣単位の「小規模への回帰」も変化の一つである。かつてその黎明期,産業は小さな地域に根ざしていた。20世紀の100年,近隣に熱と電気をいっしょに供給していた火力(水蒸気発生式)発電は巨大化し,遠隔地から広範な地域に電力だけを供給する発電所へと姿を変えていった。発電所を中心として遠く広く分散する消費者への電気の流れは,精巧な技術・社会システムによってコントロールされ,電気料金がその流れをさかのぼって,発電機,燃料,送電網のコストをまかなった。この構造は,発電所が系統より高価でありながら信頼性は低く,系統と連系して安定性と経済性を補う必要があった20世紀初期には有効だった。系統はまた,さまざまな使い方をする消費者の電力量をまとめて一つに融合し,高価な発電能力を共有させ,膨大な数の都市消費者から得た収益を補助金のように使って,郊外にいる顧客へ送電サービスの手を広げていった。
 しかし21世紀を迎え,先進工業国の住民は文字どおりだれもが電力を利用するようになって,巨大発電所の論理を裏打ちする仮定は根底から覆されてしまった。集中型火力発電所はもはや,価格においても安定性においても競争力のある電力を系統に流すことができなくなっている。発電機が系統より経済的になり,きわめて安定性が高くなったために,電力トラブルの原因はほぼすべて系統に集中した。つまり中央の発電所と遠隔地の消費者をつなぐ系統は,もはや高額な料金と電力の品質問題を送りつける主犯になってしまったのである。この事実は,コンピュータをはじめとするデジタル機器が非常に安定した電力を要求するようになって,さらに顕著になった。要するに,最も安く,最も信頼できるのは,使用するその場所もしくは近辺で発電された電力なのだ。
 電力会社は,伝統的に,規模による経済性(大きいほど,kW当たりの投資は小さい)という一連の理論ばかりに注目してきたために,発電所,系統,両者の運用法や,システム全体の構造にひそむ,規模によるさらに大きな非経済性を見逃してきた。大きいことはよいことだというビジョンに固執する視野の狭さが,下げるつもりであったはずのコストと財務リスクを,逆に上げる結果となってしまったのだ。損失がもたらされた大元の原因は,必要とされる消費電力規模の大半と,供給される電力のスケールが大きくかけ離れていることにある。平均使用電力をみると,合衆国の家庭用電力の4分の3は1.5キロワットを,商用電力の4分の3は12キロワットを超えていないのに対し,在来型発電所一つの発電力は約100万キロワットである。一般的な電力消費規模であるキロワットスケールに,あるいは通常の変電所規模である数万キロワットスケールに,さらにまた,その中間にあるマイクログリッドのスケールに,よりよくマッチする電源であれば,巨大発電所よりもずっと経済的なのだが,そのことはまだほとんど知られていない。
 一方,資本市場の方はだんだんこのことを理解するようになってきた。集中型火力発電所の効率向上は60年代に止まった。70年代には大規模化が止まった。80年代には価格低下が止まった。そして90年代には購入されることがなくなった。小型発電機は,大量生産によって巨大発電所の規模の利益を凌駕した。90年代に入り,70・80年代の巨大主義末期のあえぎともいえる原子力発電所と,大量生産された航空エンジンより生み出され,鉄道輸送できる小さなコンバインドサイクル・ガス焚き発電機とのコスト差が,政治的ストレスを生み出し,業界の構造改革を引き起こすにいたった。同時に,マイクロタービン,太陽電池,燃料電池,風力発電機など,容量が数千,数万分の一である新種のマイクロパワー発電機があなどれない強敵となり,情報・通信技術がその競争力を後押しした。構造改革が行われた電力業界は,いままで競争から遠く離れて安住の地におさまっていた発電所建設業者を,市場の厳しい試練の中に投げ入れた。マイクロパワーの追撃,見通しが立てにくい需要,巨大で建設期間も長大であるという非柔軟性,などの要因が,資本市場から見向きされなくなるほどの財務リスクを生み出した。そして2001年,積年の懸案事項であった巨大プラントと長距離送電網が抱える宿命的な弱点が,9月11日のテロリストによる攻撃で,さらに際だつことになったのである
 巨大火力発電所とそれに付随する送電網が,コスト,効率性,財務リスク,信頼性いずれをとってもお粗末である状況のもと,発注は激減した。原子力発電とコンバインドサイクル発電のコスト差は,構造改革を促進して電力業界のメッキをはがしたが,動きはそれ以前からあったのだ。そして,構造改革は市場に新規参入者を呼び寄せ,価格を解体し,さまざまな規模の競争条件を導入した。その結果,革命が始まった。マイクロジェネレータは群れをなして巨象を駆逐しようとしている。すでに,分散型電源とそれを招き入れた市場では,競争市場経済に合致する新しい発電ユニットの大部分が,1980年代の100万キロワットスケールから,その100分の1という小さなスケール(1940年代には主流だった)に移行している。さらにユーザー主体のキロワットスケール(1920年代までは広くみられた)につながる急激な分散化が,急速に広がりつつある。特に,広域に分散利用されるマイクロエレクトロニクスによる情報収集方式を基盤とするようになれば,もっと大きなメリットがあることが証明されるかもしれない。分散型発電は電力市場が構造改革されることを必要とするわけではなく,電力事業者が特定の規模をもつことを意味するわけでもない。しかし,その両方を進展させる原動力になりはじめているのである。
 分散型電源技術でも,太陽電池や燃料電池はまだ生産量が低く,ライバルたちに比べるとコストがまだ高い。しかし,財務リスク,エンジニアリングの柔軟性,安全性,環境への負荷その他が改善されるという重要な特性があるので,見かけ上のコストの高さという不利を補っておつりが出るほど価値があることが多い。本書では,エンジニアリングや財務関係者,企業の事業責任者や戦略立案担当者,行政政策立案者,建築設計デザイナー,さらに関係市民の方々に,こうした新しい価値がどのように実現するのかを紹介する。また,電気工学,電力システムプランニング,財務会計といった学問の視点から,重要な基本概念を解説もしている。ここでの事例はおもに米国のものを取り上げているが,その視野は世界を対象にしている。
 10社足らずの先進的な電力事業者と関連業界企業が,分散のメリットには事業価値があることを1990年代に確認していた。ところが,その価値がきわめて高いために,90年代中頃以降,最もすぐれた概念分析結果やフィールドデータは企業秘密となってしまった。政府が分散型電源のメリット評価手法やサンプルを公表しようと努力したのだがほとんど功を奏さず,公表された分析結果や手法も,問題のほんの一部しかカバーしていないものが大半だった。そこで,本書は,たとえ序論であっても,はじめての包括的でシステマティックな一般的体系論であろうと努めた。電源の規模を適正にすれば,いかにしてコストとリスクを最小にできるか,明らかになったおもなものは次のとおりである。
 
分散のメリットで最も価値の高いものは,ふつう財務会計論から生まれてくる。設備のモジュールが小さいため設置運転までのリードタイムが短く,可搬性があり,燃料価格に左右されることが少ない,あるいはない,ことによるリスクの低減からくるのだ。この種のメリットは,再生可能エネルギーの場合で10倍近く,非再生可能エネルギーの場合で約3〜5倍の価値になることが多い。
電気工学上のメリットである,送配電コストと損失の低減,事故管理の容易化,無効電力の改善などは,さらに2〜3倍の価値を生むのが通常である。しかし,もし配電系統容量がいっぱいだったり,高い電力品質や信頼性を求められるときには,それを上回る倍率の価値増加が生まれる。
排熱が再利用される所では,いろいろ雑多なメリットを組み合わせて,さらに2倍程度までの価値が出てくる。
外部効果は数量化するのがむずかしいが,政治的には決定要因になるかもしれないし,金額換算できるものもある。
分散のメリットを手中に収めるには,目端の利いた事業戦略と,公共政策の改正が必要である。
 
 生まれつつある新しい電力市場構造は,インセンティブ,検証とその認証,さらに分散のメリットを市場が後押しするのに必要な,法的な将来展望を与えることができる。競争を制する者は,このようなメリットを投資判断や価格設定に反映させるだろう。技術的,概念的,組織的な力はほかにも1ダース近くあって,「分散型発電事業」への急速な移行を推進している。そこでは,発電が,遠隔地からユーザーの裏庭,地下室,屋根の上,車庫に続く私道にまで移動してくる。この変化は,活発な競争力をもち,弾力性に富み,収益性の高い,顧客にも地球にも負担の少ない電力事業分野が生まれることを約束している。かくして,ちょうど1世紀遅れで,トーマス・エジソンが最初に描いた分散型発電のビジョンが充足されることになるのだ。
 
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