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はしがき
 
 ここには魅力的で,いままでの常識を越えたチャレンジングなストーリーがある。よい小説というものが往々にしてそうであるように,歴史を見渡し,項目を詳細に掘り下げていくと話はどうしても広がってしまう。読者の皆様にはこの点少しだけ辛抱をお願いしておつきあいいただかなければならない。小さなばらばらのかけらを一つ一つ丹念につなぎ合わせて,大きなアイデアをつくり上げようとしているからなのだが,その結果は,電力供給という世界最大の産業に,重大な影響を与えるはずだ。
 
 複雑で広範な分野をカバーするこの本を,私たちは,この話題に興味をもつ一般の人々や市民運動家から,専門技術者,市場に参画する人々まで,多様な読者のどなたにも読んでいただけるかたちで記述したつもりだ。すでに基本概念を把握している読者であれば,初歩的な題材は飛ばしてほしい。専門知識をもたない読者には,なじみがないであろうと思われる基本的な用語や考え方をわかってもらえるように説明してあるので,肩に力を入れずに読んでいただきたい。また,専門でない人にも理解しやすいよう,時に単純化してものごとを説明していることを専門家の方々にはお許しいただければと思う。
 
 説明を複雑にしないため,また文脈を乱さないために,補足的な事項は囲みにしたり各部の最後に記載するなどの工夫をした。注は本文の横に,事例の紹介については薄い青の囲みに入れた。語の定義(technical terms)と,技術的な背景知識(technical note),理解を深めるための手引きは各部の最後に掲載した。第2部で207項目挙げられる「分散のメリット」は,通し番号をふり,めだつようにしてある。さらに,目次はなるべく細かく,通常なら索引が果たす役割をも果たせるようにした。執筆者のプロフィールと,出版者であるロッキーマウンテン研究所に関する情報は巻末に掲載する。参考文献番号は(1) (2) (3) …で表し,全文通して青で表示する。この番号は巻末のアルファベット順注釈リストに対応している。
 
 本書は大きく三部に分かれている。
 第1部では,現在進行形である重大な変遷の歴史-きわめて大規模なものからおもに小型の発電プラントへのシフト-を紹介する。この研究を始めた発端とその進め方を概括し,定義上の問題点を明らかにし,現在の米国における電力システムがどのようなものか,また分散型エネルギーのおもな種類について解説し,最後に,背景となる重要な問題について手短な考察を行って締めくくっている。
 第2部では規模の効果(規模の大きさが価値に与える影響)の体系的かつ詳細な調査,およびそれぞれの効果に対応する分散のメリット207項目を,必要に応じて技術的,経済的な概念の解説も交じえながら紹介し実証する。分散の利点を分類する方法は多数あり得るが,ここでは三つの大項目に分けて述べる方式にした。システムプラン,建設と運用,そして,メリットが生まれるその他の要因である。システムプランのメリットにおいては技術的側面も重要だが,現実に即していることを重視して,あえて主として財務経済学的観点から書いた。逆に,建設と運用上のメリットでは,おもに電気工学上の概念,用語を使い,メリットが生まれるその他の要因についても同様にしている。ただし,「社会・環境コストを抑える」といった外部効果はその例外になっている。
 第1部および第2部の綿密な分析はすべて,実際のビジネスや政策の場で応用されなければ意味がない。分散のメリットから生まれる成果を手に入れようとする者は,市場の変化を理解しなければならず,市場の機能を管理する法律をつくる者は,分散のメリットを理解しなければならない。そのため第3部では,分散のメリットを市場で実現させるには,公共政策の指導的役割による支援が必要であることを強調した。また,民間部門における不安材料とビジネスチャンスとを検討し,市民からの注目と働きかけが大切であることを述べている。
 懸命な作業を行ってきたが,成すべきことの大きさに対し,駆使できる力は限られていて不足するところは多く,内心忸怩たるものがある。芳醇なアイデアの鉱脈を掘り出すまでは至らず,ただ地図に所在を記すことができたにすぎなかった。しかし,「仕事量に対する適正なサイズとは何か」という,長年問われていながらまったくないがしろにされてきた疑問に対し,広く深く追求し,公共的,一般的な基盤を築き上げることを願いながら粘り強い努力を傾けてきた。また,論理の具体性のためにあえて電力システムに焦点を絞ったが,他の技術や経済のシステムにも,同様のスケール論が応用できるものが多数あることに疑問の余地はない。ロッキーマウンテン研究所では,すでにこの論理を給水・排水システムに当てはめ,成果を上げつつある。
 広範で入り組んだアイデアを調査する際の常として,たくさんの研究者,専門家の業績を自由に引用させていただいた。その際に,節度と謝意を欠かさぬことには気を遣ったつもりである。文中いたるところに表示され,巻末にまとめられた何百もの出典が,私たちの“知的負債"の重さを物語っている。しかし,とりわけ感謝の意を表したいのは,得がたい情報を提供し,私たちの犯した間違いを根気よく正し,草稿を読み返して改善への助言を下さって,重荷を軽くして下さった方々に対してである。間違いや脱落が残っているとすれば,それは私たちの至らなさゆえである。本書が価値あるものになったのは,この方々をはじめすぐれた仲間の好意と見識のおかげである。

  <中略>

 ロッキーマウンテン研究所は独立非営利の応用研究所であるが,この研究および出版へのスポンサーの皆様にも感謝の意を表したい。この研究のはじまりは20年以上も前にさかのぼる。規模の問題は,『Soft Energy Paths』(1977,邦訳『ソフト・エネルギー・パス』時事通信社)の1章に,また『Brittle Power』(1981/82,邦訳 『ブリトルパワー』時事通信社)の補遺に取り上げた。RMIが行った分散エネルギーの利点に関するシステマティックな調査の更新・整理を行うプロジェクトは,1993年ピュー・チャリタブル財団(The Pew Charitable Trusts)から一部資金提供を受けて発足した。同財団は辛抱強く計画の熟成を見守ってくれた。研究は90年代にはぽつりぽつりとしかはかどらず,ウィリアム・アンド・フローラ・ヒューレット財団(The William and Flora Hewlett Foundation)やスルドナ財団(Surdna Foundation)を中核とする,研究所の支援団体や,数多くの個人資金提供者の支援にすがって存続していた。第1部と第2部は1997年に脱稿し,専門家のチェックが行われたが,『Natural Capitalism』(1999)を先に出版する予定が入って足止めされた。
 2000年1月,新たな助成金が,エネルギー財団から編集作業に対し,またシェル財団から製本・出版に対して与えられたおかげで,RMIはプロジェクトを再開し完成させることができた。エネルギー財団のハル・ハービー氏とエリック・ヘイツ氏,そしてシェル社のカーツ・ホフマン氏には,その卓見とねばり強さに敬意を表し,心から感謝する。第3部の一部は,RMIのシニア・エネルギーコンサルタント,カール・R・ラバゴ氏とトム・フェイラー氏が2001年から翌年にかけて執筆した。またそれと同時期に,新たな見識を与えてくれたものに,RMIエネルギーチームリーダー,PEジョエル・N・スウィッシャー博士により執筆された2002年の研究論文,「クリーンなエネルギーがグリーンな利益をもたらす:コスト効率の高い分散電源-燃料電池」がある。これは,W・アルトン・ジョーンズ財団(W. Alton Jones Foundation)よりおもに資金提供されて可能になったものである。2002年春には,第3部の大部分に対し,E・カイル・ダッタ氏から多大なご厚情をいただいた。
 寛大なる資金提供者の皆様による支援のおかげで,編集・レイアウト作業は2002年夏ついに完成し,8月の出版を迎えることができたのだ。親愛なる皆様方の終始変わらぬご支援がなければ,この作業が成し遂げられることはなかっただろう。まだ残っているに違いない不完全な記述に対しすべての責を負うのは,主著者,そして最終編集者としての私である。
 
 最後に,読者にお願いしたいことがある。本研究のさらなる発展のためには,皆様方のお力添えが必要なのだ。分散のメリットに関する批評,コメント,提案,参考資料,連絡先,実例,その他いかなる形でも新しい発想や物証があれば,sipcomments@rmi.orgまで送ってくださるようお願いしたい。この最新技術を,時代の要請に遅れることなく発展させていくには,この新たな分野に育ちつつある大勢の専門家たちの知識を募ることなくしては望めないのである。訂正,更新,関連情報は,www.rmi.orgのライブラリ/エネルギーの項に定期的に掲載されることになっている。
 
 
エイモリー・B・ロビンス
オールド・スノーマス にて
2002年7月15日
 
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