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日本の読者への言葉
 
 西欧に育った者が,この面では練達している日本の方々に向かって,適切な規模にすることに価値があると説くのはどうもおこがましい気がする。日本文化は,みごとに洗練されたやり方で,まさにこの極意を推し進める経験を何千年にわたって積み重ねてきた。世界の文明開化に日本が最も貢献したことの一つは,技術というものが究極的には芸術であって,優雅なプロポーションや場所へのおさまりのよさも含めた,美的感覚で判断されるものだという意義を示したことだ。ユーザーの使い勝手との調和をつくり出す総合的な設計の目標である「感性的エンジニアリング」も,西欧社会がユーザーを無視する傾向があるのに比べてはるかにすぐれている。
 しかし,その卓越した技術力は,多くの技術分野で日本に世界の先頭を切らせたと同時に,それよりずっと貴重な文化的英知を腐らせてしまった。その技術力があったがゆえに,日本の電力業界は,ほとんどの西欧国家で,環境,経済,安全保障をだめにしたのと同じ,狂信的巨大主義と過度な集中化を取り込む方向に向かってしまった。
 第二次世界大戦のさなか,日本の電力の78%は分散設置された水力発電所によるもので,集中火力発電所からの電力は22%だった。その火力発電所は,爆撃被害の99.7%を受けることになり,単位出力当たりでは水力に比べて1200倍の被害を被っていた。国家安全保障に関してこのような脆弱さがあるという厳粛な結果は,今日みられるテロリズムや自然災害が起きた場合にそのまま影を映している。
 最近の米国,ヨーロッパが経験したことをみてもはっきりしている。過度に規模が大きくなって集中した発電所や送電系統は,不安定性や地域ぐるみの停電を防止しないどころか,拡大させることすらある。過度に集中していることで,大きな障害が起こることが本質的に避けられなくなる。ところが,効率がよく,多様で,分散している自然エネルギーの組合せは,大きな不具合が起きるのを本来的に不可能にし,しかも全体として小さな経済コストでそれを実現できる。
 投資が,巨額で,ゆっくりと,大きなかたまりで行われれば,電力事業もその顧客も受け入れられないほどのコストとリスクが発生し,それが何回起きるかは不確実となる。巨大主義はいわゆる「無駄」となり,経済全体に税負担を課し,富をどぶに捨てさせ,生産性の高い投資をさせず,競争力を弱めていく。不確実性が大きくなればなるほど,小規模で,小回りがきき,モジュール型で,必要に応じて建設し,完成の都度支払うという発電容量がもつ特質の価値は増大する。ほとんど認識されていないかもしれないが,日本で,エネルギーを使って作業をする量があらゆる分野で膨大に増えていく可能性をまだ抱えているという現実は,その供給サイドの不安定性を高めることになる。そして,電力市場が具体化するにつれ,日本がもつ自然エネルギーの比類のない豊かさが,供給面での競争を激化させるだろう。この自然エネルギーという富は,日本が化石燃料をほとんどもたないために見えにくくなってはいる。
 本書は,電力システムの価値を,それがなすべき仕事に見合った適正な規模にすれば,社会的および環境面から見た利点を考慮に入れなくても,通常10倍に高めることができる207の手法を説明しているが,これは,金融経済や電力エンジニアリングというレンズを通して眺めることで具現化されるものだ。主として米国でみられる状況と,日本独自の条件の間には,細かい点では異なる面が多いだろう。しかし,類似点のほうが重要で,そのメリットはほぼ移植可能なのだ。すでに太陽光発電で行っているように,日本が技術力を発揮して,このような新しいかたちの価値を取り込むのに注力すれば,その率先垂範が,日本だけではなく,世界中の経済と環境を変革できるだろう。
 「適切な規模とは何か」という含蓄のある質問は,電力の供給に向けた投資に限らず,その効率的な使い方にも応用できる。しかも,電力だけではなく,燃料,水,排水や,他の各種インフラについても該当する。献身的翻訳作業をしてくれた山藤泰氏,出版を引き受けてくれた省エネルギーセンター,それに加えて,この翻訳出版を支援してくださった企業,団体のご協力のおかげで,日本の革新的行動力をもつ人たちに読んでいただける機会を実現することができたのを,私も含めた本書関係者は心からありがたく思っている。本書で述べたささやかな提言を踏み台にして,日本が予想を超えたすばらしい改善の実績を上げ,調和,永続性,意識に組み込まれた豊かさを,どのようにしてつくり出すか,再び西欧社会に教えてくれるものと確信している。
 
エイモリー・B・ロビンス
オールド スノーマス,コロラド州,米国
2005年1月26日
 
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