2024年度冬における電力需要は、全エリアにおいて安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できている。他方、供給サイドは、確保している供給力の中に老朽化した火力発電所が含まれるなど、構造的な課題を抱えており、設備トラブル等のリスクを踏まえると、今冬の電力需要は予断を許さない状況である。( (資料4)「今夏の電力需給及び今冬以降の需給見通し・運用について」2024年10月29日資源エネルギー庁 電力ガス基本政策小委員会資料参照)またエネルギー価格の高騰も続いており、企業経営にとって一層の省エネルギーの推進や節電対策が求められている。本年度冬季の省エネ対策や節電対策のポイントを以下に示すが、2023年4月に改正された省エネ法に合わせ、これまでのカット、シフト、チェンジといった3つの基本事項に加え需給の最適化としてマネジメントを加え整理を行った。
無駄なエネルギー使用を避ける(カット)
[照明]
オフィスや工場における不要照明の消灯、照度の見直し
安全上あるいは生産上問題のない範囲での消灯、照明間引きによる照度調整を行い、特に、テレワーク拡大により無駄な照明がないかを再チェックする。
広告照明や屋外照明等の停止あるいは管理の徹底
直接事業活動に支障とならない広告や看板、ライトアップ等の消灯や点灯時間の管理強化により無駄を排除する。
[空調・暖房]
暖房設定温度を見直すとともに湿度調整もおこなう
テレワーク拡大に伴い無駄な空調エリアがないかを再チェックする。 また、湿度調整可能な空調・システムの場合は、温度設定だけではなく必ず湿度とのバランスをとると共に風の流れを活用(風量調整)する。
暖房時の暖気・冷気の拡散
扇風機やサーキュレータにより屋内上部に滞留する暖気、足元の冷気を攪拌する。
必要に応じてカーテン、ブラインドを活用し暖気を逃がさないようにする
不要時の換気ファンやブロア等のこまめな停止等、換気の適正化
2024年11月現在、コロナは収束状態にあるものの引き続き注意が必要であり、特に人の多い室内等では適切な換気が求められる。一方で、過剰な換気は換気負荷、空調負荷の増加につながり、ムダな電力コストになることから注意が必要。対象空間の大きさと使用している換気機器の能力をチェックしたうえで、換気ダンパ等で外気取入れ量の調整ができる場合は適正化をはかることが重要。この場合、室内のCO2濃度としては1,000PPMを超えないことに留意する一方500~600PPM以下といった低すぎる場合には過剰換気となっている場合が多く、結果的に無駄なエネルギーを使用していることになる。また室内の空気流れを阻害するようなオフィス家具や機器の配置、レイアウト等を見直すことなど、こまめな管理が必要。更には費用が必要となるが換気装置を熱交換機能付きや回転数制御機能付きなどに改善するといったことも重要である。
無人電気室等における空調の停止
電気室あるいはサーバー室等に設置されている電子機器類の周囲温度条件は、一般的に40℃以下とされているが、安全を優先するあまり暖房設定温度が低めになり、季節、外気温にかかわらず空調設備は一定で運転されているケースが多い。この対策としては、まず盤ごとの温度分布実態の把握とネックとなる電子機器類の特定を行い、空調機設置場所、あるいは吹き出し口の見直し、サーキュレータ等の活用、その上で温度設定見直し、季節ごとの空調機運転基準の設定を行い、これに基づき管理を行うことが必要。
[生産・ユーティリティ設備]
蒸気配管保温等断熱の強化、吹きっぱなし蒸気トラップの緊急補修
配管やタンクの保温断熱の強化や補修を行うとともに、蒸気トラップの動作チェックや蒸気ドレンの熱回収なども検討する。また使用していない負荷への配管系統等がないか確認し、できるだけ供給側に近い箇所でのバルブ閉等、遮断を行う。
工場等における冷却や洗浄工程での水の節約
工場等では多量の工業用水、上水を使用しているが、これも安全上や品質維持のため過剰気味になっている例が多い。
また管理の煩雑さ等から非生産時にもバルブ開のままとしている例も多い。ポンプの起動頻度に留意する必要があるが、水量の見直しとともにこまめなオンオフが省電力となる。その他事務所やトイレの節水も省エネ、省電力となる。
温水供給温度の低減、温水から水使用への切替え等
多量の温水を使用している工場プロセスについては、量の削減とともに供給温度見直しや温水代替等を検討する。温水製造では廃熱やHP、コジェネ等の活用が短中期課題として検討が必要。
ライン停止時、非操業時の設備の電源OFF
設備やラインの停止は、可能な限り電源からのシャットダウンが望ましい。但しこの頻度は、再起動時の起動電力やエネルギーと停止による削減電力量を比較したうえで、当該設備や機器への影響がない範囲で基準化しておく必要がある。
圧縮空気の供給圧力設定の低減
特に製造業等において圧縮空気は有効な動力源として多く使われているが、当センターが実施する省エネ診断では空気供給系統における漏洩を指摘することが多い。従ってまず漏洩検知器等を用い漏洩個所の特定と修理を行うことが必要であり、その上で各使用先末端での到達圧力や供給配管経路中の減圧弁の状況等をチェックし供給圧力を見直すこと。
[その他]
パソコン、コピー機、その他オフィス機器、給茶器、自動販売機等の不要時の電源オフ
テレワーク拡大により使用しないPC、コピー機がないかチェックし、使用していないものはコンセントを抜き待機電力をカットする。 温水洗浄便座の保温・温水の設定温度を下げるとともに、不要時はふたを閉める。
エネルギーのピーク使用を抑制する(シフト)
[空調・暖房]
空調開始時間、暖房開始時間の見直しを行う。特に複数の設備がある場合、ピーク電力抑制のためには、各空調の起動タイミングを見直し、ピーク電力が発生しないよう順次起動を行うようマニュアル化を行う。これらのアプローチを契約電力の見直しにつなげ、電力基本料金の削減をはかる。
冬場は電気を使用した暖房の増加により、気温の低い時間帯や夕方以降に電力需要が増えることが多いことから、運転時間を検討する。
[生産・ユーティリティ設備]
適切な工程管理等によるピークの抑制と無駄の排除
ピーク電力抑制のため、一度に設備や機器を起動せず電力平準化を狙った順次起動が有効。契約電力の低減にもつながり電力コストを下げられる。また、工場等において複数のラインがある場合など、各ラインの動きを全体としてとらえ一元的に管理する体制が必要である。特に連続工程の場合などは前後の工程管理やプロセス管理が一層重要となる。また、生産工程そのものの抜本改編、省略、スリム化等の検討がエネルギー利用効率の向上につながる。
生産プロセスとユ-テイリテイ供給の連系
少量多品種といった生産構造や生産体制の変化に伴い、電気、蒸気、熱、空気といったユーテイリテイエネルギー供給は固定的エネルギー(ムダなエネルギー)になりやすい。必要時に必要なエネルギーを供給するといった視点での管理が必要。
自家発電設備の活用
燃料代の高騰により出力を調整している自家発等がある場合においては、自社のピーク需要の抑制のためデマンド予測に基づき出力調整を行う。また電力系統全体の供給力不足時の下げDR要請や再エネ余剰電力発生時の上げDR要請時において、自社需要調整と共に発電出力の調整等を行う。
蓄電、蓄熱の利用
緊急対策とは言えないが、近年の蓄電池の技術進歩や再生可能エネルギーの効率的利用ニーズから蓄電池活用が現実味を帯びてきている。太陽光発電等の導入と合わせNAS、レドックスフロー、Li電池等の活用は災害時、停電時のレジリエンス性の観点からも検討に値する。また排熱の効率的活用として蓄熱や蓄輸送による自社内活用や地域連携などもエネルギー利用効率の向上となる。
電力から他のエネルギーへの転換や高効率機器等への転換(チェンジ)
[照明]
高効率LED照明への転換や交換
近年照明分野におけるLED化は急速に普及しつつあるが、既築のオフィスビル等においては、まだまだLED化の余地が大きい。一方、器具を含むLED製品自体も効率化が進展しており、更に高天井や屋外等に適したものも開発され、倉庫、道路、農業といった新しい用途への広がりも期待できる。また人感センサーや無線制御システムといった、効率的な使い方が可能な制御機器の適用も省エネにつながる。
[空調・暖房]
電気ストーブや電気ヒータから高効率HPへの転換
電力需給の緊急事態発令時においては、電気暖房から燃料焚き暖房への切り替えも有効。
[生産・ユーティリティ設備]
電気加熱からガス加熱あるいはハイブリッド加熱への転換
電力需給対策上必要な状況においては、電気加熱から他の加熱方式(ガス方式、ハイブリット方式等)に転換が可能であれば対応する。
高効率プロセス機器の導入等
設備の新設や増設時、または老朽化による更新などには、できるだけ高効率の機器を採用するとともに、ポンプやファンなどにはインバータ等、省電力制御装置の導入などが有効である。すでにインバータ装置を使用している場合は手動、自動にかかわらず設定値あるいは管理値等を見直す。
エネルギー・電力の最適な管理・運用(マネジメント)
エネマネシステム等の活用
- エネルギー管理の最も基本となる事項はエネルギー使用の実態を把握することであり、このための計量器の整備に努め、またFEMSやBEMSデータを監視、分析しアクションにつなげること。
上げ・下げDR対応の徹底
- 2023年4月に改正省エネ法が施行されたが主たる改正点の1つに国への上げ下げDRの実績報告がある。
- 電力需給の最適化には上記のカット、シフト、チェンジの各対応を実践すると同時に地域全体の電力需給のひっ迫、あるいは再生可能エネルギーの過剰状況を踏まえ、自社の需要の増減といったアクションを、あらかじめ管理標準等において規定しておくことが極めて重要。
- この際、下げDRに関しては少なくとも下記に示す3つのステージでの規定が望ましく、一方、上げDRに関しては電力単価に配慮したアクション規定であることが必要である。
・30分以内の 瞬時・短期アクション
・日単位・時間帯単位の中期クション
・週・月単位の長期アクション - 特に冬季は、日照時間も短く、気温などの影響により太陽光発電の出力が低下する夕方に、需給ひっ迫が発生する可能性がある。電力の需給ひっ迫注意報等が発令された場合には、不要な電力のカットや、生産体制の調整、また、自家発火力等を運転・利用している場合に余力があれば、自家発の出力を増やす、蓄電池を設置している場合には、蓄電池からの放電を行うなど、系統からの電力購入量を減らすなど、下げDRに取り組む。
■ 関連リンク先
〇工場、ビル等の省エネ推進に役立つ※チェックリスト(PDF)も併せてご活用ください。
〇「省エネ最適化診断」のご案内、お申込みはこちらをご覧ください。
〇家庭の節電対策については、※家庭の節電対策(PDF)をご覧ください。
〇家庭の省エネ対策については、※家庭の省エネ大辞典(2012 年版)をご覧ください。
〇「省エネ最適化診断」のご案内、お申込みはこちらをご覧ください。
〇家庭の節電対策については、※家庭の節電対策(PDF)をご覧ください。
〇家庭の省エネ対策については、※家庭の省エネ大辞典(