(別添資料 5)
自動車の技術動向及び省エネルギー技術の現状と今後の見通し
1.技術動向
自動車は、その直接の製造産業のみならず、素材・材料、エレクトロニクス等の多くの産業を集約して製作される大衆商品である。
1960年代から始まったわが国のモータリゼーションの進展に伴い、自動車保有台数は急激に増大したが、その一方で、交通事故死傷者数の増加や大都市における大気汚染、騒音の問題が生じ、安全・公害問題への対応のため、自動車には多くの技術が開発導入されてきた。
また、1973年のオイルショックは自動車に省エネルギーという新たな問題を提起し、その後自動車は安全確保、公害防止及び省エネルギーが並存した技術の導入が進められてきたところである。

(1) 排出ガス対策の強化
我が国では、昭和41年(1966年)のCO(一酸化炭素)規制から本格的な規制がはじまり、その後、昭和48年のNOx規制(窒素酸化物)規制に次いで、50年、51年53年と順次規制が強化され、世界で最も厳しい排出ガス規制が実施されることとなったことから、排出ガス規制値をクリアするために、エンジン本体の改良を含め排出ガス浄化技術の開発を行った結果、排出ガス対策のみならず、高性能で燃費性能に優れたエンジンが開発されることとなった。

(2) 安全対策の強化
交通事故実態の変化等に対応するため、昭和47年に従来からの事故回避対策に加え、被害軽減対策及び火災防止対策を講ずることが必要とされ、これらの3つの対策について、拡充強化目標が定められ、これらに対応するための技術開発が行われることとなった。
この安全対策については、昭和55年に情勢の変化、事故の実態等を踏まえ、自動車の構造面での一層の安全性の向上を図ることが必要とされ、高速化対策の追加、火災防止対策の強化及びトラックの安全対策が行われることとなり、これに対応する技術開発が行われることとなった。

(3) 高性能と低燃費との両立
昭和48年(1973年)に起きたオイルショック問題により、自動車技術に省エネルギーという課題が提起された結果、低燃費で高性能なエンジン技術が開発されることとなった。
また、80年代には、操縦安定性と安全性を追求する技術(4輪アンチロックブレーキシステム(ABS)、サスペンションの電子制御化等)が多く商品化された。

(4) 安全・快適で環境負荷の少ない自動車の開発
90年代に入ってからは、これまでの様々な規制への対応技術から、よりアクティブに安全性や環境保全へ配慮した技術が開発されたこととなった。
走行安定性の制御精度を高め、より安全で快適な走行を可能にする技術(アクティブサスペンション、トラクションコントロール等)に加え、環境面において、省資源での低燃費性能と地球温暖化の一要因であるCO2の排出量の低減を図るなど、環境への負荷の少ない技術が開発、導入されることとなった。

2.省エネルギー技術の現状と今後の見通しについて

燃費向上のための、エネルギーの有効利用あるいは効率向上の対応策として、車両全体では、

・エンジンの効率向上(エンジン本体の改良、直噴化、リーンバーン化等)、
・走行低減の低減(空気抵抗低減等)、
・駆動系損失の低減(トランスミッションの伝達効率向上等)、
・車両軽量化の推進

などが挙げられる。
しかし一方では、自動車の構造・装置については、事故の防止、事故時の被害軽減等のため今後も安全基準の強化等が図られることが予想される。
また、大気汚染の防止、沿道騒音の低減等のため、自動車の排出ガス及び騒音等に関する公害防止規制の強化も順次講じられることが予定されている。
これらに対応するための技術の中には、その採用により車両重量の増加、消費エネルギーの増大等を伴うものや、燃費向上に直接的に関係するエンジンの燃焼技術とは両立が困難なものがある。
したがって、自動車燃費基準の策定・改正に当たっては、自動車の安全確保、公害防止等のために必要な技術の採用が適切に講じられるよう配慮する必要がある。

(1)エンジン改良の主な燃費向上の要因について
エンジンでの燃費向上要因の主なものは、以下のとおりである。
1)ポンプ損失の低減
ガソリンエンジンの場合、混合気等をエンジンに吸入する際には、負の仕事をする(ポンプ損失)。このポンプ損失を低減するには、直噴・リーンバーンの実現や可変動弁機構での吸排気弁開閉の最適化などが有    効な手段となる。
2)熱効率の向上
高圧縮比化、燃焼の改善等によりエンジンの熱効率が向上する。高圧縮比化のためノック制御の採用等、燃焼の改善のため燃焼室形状の改善、OHC化、4バルブ化等が採用されている。
3)機械効率の向上
各部のフリクションの低減によるエンジン機械損失の低減などにより燃費向上を図ることが可能である。
(2)燃費向上技術例
1)ガソリンリーンバーンエンジン
希薄燃焼のことで通常の空気と燃料の混合割合より空気を多くすることによって燃料であるガソリンを節約しようとするエンジンである。
燃料と空気の理論混合比(供給した燃料を完全燃焼させるために、理論上必要な最小空気量と燃料量との重量比)は空気とガソリンの重量比で14.5〜14.8:1程度であるが、この理論比より薄い状態(混合比22〜25:1)がリーン領域である。

2)ガソリン直噴エンジン

シリンダー(筒内)に直接燃料を噴射させる機構のエンジンである。
燃費性能を良くするために混合気を成層化して燃焼させることによりリーンバーンエンジンより更に薄い混合気を使用するものであり、混合比40〜50:1程度までの超希薄領域を使用するエンジンである。
       
3)バルブコントロールシステム
  (a)4バルブ化
4バルブ燃焼室
  従来のエンジンは、1気筒あたり吸排気バルブそれぞれ1つずつの2バルブであったが、吸排気バルブを1つずつ増やし4バルブ化することにより、点火プラグが燃焼室の中心に配置できることから、燃焼が改善し熱効率が向上する。また、ガソリンエンジンの場合、吸排気ガスの流れをスムーズにすることなどによりしぼり損失の低減を図ることにより燃費をよくすることを実現した。
  (b)可変バルブタイミング  
  吸気バルブと排気バルブの開閉時期とそれらのリフト量を可変にすることによって、異なった運転条件における性能のトレードオフを小さくすることを目的に開発されたシステム。通常のガソリンエンジンでは、バルブの開閉タイミングを低速域でのトルクを出すようなセッティングにすると高速域の性能が犠牲になったり、アイドル性能を重視すると中速域でのトルクが低下し、商品としての魅力を失うこととなる。これらの相反する性能を両立させるために、吸気バルブと排気バルブの開閉時期とそれらのリフト量を最適化するシステムである。
   
4) 電子制御燃料噴射装置
  従来ディーゼルエンジンでは、、機械式のタイマー、ガバナを用いて燃料噴射系を中心に噴射時期、噴射量を主に制御していたが、省エネルギー、エンジンの高出力化、排出ガス低減の要求に対応するため、エンジン燃焼に直接影響する燃料噴射率、給気スワール(燃料と空気を均質に混合させることにより、黒煙などの発生を抑制)などの可変化と、これらの制御を的確に行う必要がある。
使用条件により複雑に変化する燃焼を最適な状態に保つため、多くのパラメータを総合的に判断しながら適切な制御を行うには従来の機械式制御方式では不十分であり、電子制御方式が極めて有用な手段である。

5) コモンレール

  ディーゼルの超高圧燃料に対応した電子制御燃料噴射装置。
各インジェクター共通に高圧燃料を蓄えるパイプ状のコモンレールを設け、高圧ポンプで燃料を噴射することによって、圧力変動の少ない高圧燃料噴射制御が可能である。従来の噴射系に対し、燃料噴射量や噴射タイミング等の制御に優れるため、静粛性や出力の向上、排出ガスの低減が図れる。
6) OHC化
  シリンダヘッドに設けたカムシャフトにより直接、又はロッカーアームを介してバルブを開閉する機構であり、従来のOHV方式に対しバルブ追従性の向上、摺動部分の減少によるバルブ機構の損失低減などにより大幅な出力が向上し、同出力での低排気量化により燃費が向上することとなる。
       
7) フリクション低減
  ピストン、クランク、カムシャフト等の摺動部の改良、表面処理等によりフリクションが低減する。
       

8) アイドル回転数低下

  通常のエンジンのアイドリング(動力が駆動に使われていない状態)回転数は、700〜900回転/分であるが、補機負荷の入力制御、エンジン改良等によるエンスト防止、音振対策等によりアイドル低回転化を実現(吸気ボリューム低減、バルブタイミング適正化)した。
   
9) 電動式パワステの採用
  従来はエンジンの動力によって油圧ポンプを常に作動させていたが、電動化により必要な時のみエネルギーを消費するように制御が可能となり燃費が向上した。ただし、現時点では比較的軽いクラスの車両に適用が可能である。
   
10) ロックアップ機能付きトランスミッション
 

トルクコンバータの入出力軸を必要に応じて直結し、滑り損失を回避するために、ロックアップクラッチ   を備えつけた自動変速機である。

 

   
11) 自動無段変速機(CVT)
  ベルト駆動によりスリップロスを低減するとともに、無段階でエンジンの最良燃費領域を有効に利用することを可能にしたオートマチックである。走行状態にあわせた最適な変速比が設定され、燃料消費率の向上が図られる。

(3)目標基準値策定の際に留意すべき要因について

1)排出ガス規制への対応

a.ガソリンリーンバーンエンジン・ガソリン直噴エンジン
リーンバーンエンジン、直噴エンジンの場合、従来エンジンよりも薄い混合気を使用するため現在の三元触媒では処理に限界があることから、希薄領域の利用頻度が下がり燃費効果に影響が生じることとなり、燃費の改善効果が下がることとなる。

b.触媒の改良
今後の排出ガス規制強化に対応するため、特にガソリンリーンバーン、直噴エンジン、ディーゼルエンジンではNOx低減に適した触媒(リーンNOx触媒等)の採用が必要になる。リーンNOx触媒等を採用した場合、NOxの還元剤として燃料を供給する必要があり、燃費に影響が生じることとなる。また、現時点では、耐久性、浄化性能が十分でなく、更なる改良が必要である。

c.EGR(排気再循環)
排出ガスの一部を再循環し吸入空気の一部を置き換えることによって燃焼温度を低下することでNOxの低減を図るものである。
ガソリンエンジンの場合、ポンプ損失低減により燃費も向上するが、ディーゼルエンジンを含め、大幅なNOx低減のためにEGRを大量に導入した場合には、燃焼の悪化により燃費に影響が生じることとなる。

d.噴射タイミング遅角
ディーゼルエンジンの燃焼噴射時期を遅らせ燃焼のピークを遅らせることで、燃焼温度を低下させNOxの低減を図るものであるが、同時に燃焼効率も悪化するため、燃費に影響が生じることとなる。

2)安全規制等への対応
安全規制対応のための車両構造の変更(正面衝突対応、側面衝突対応)、エアバックの採用(運転席、助手席)、アンチロックブレーキ(ABS)の採用などの対応により車両重量が増加し、燃費に影響が生じることとなる。
 特に、軽自動車については、小型車・普通車と安全基準を同レベルにするための規格改定を行っており、このための重量増加で燃費に影響が生じることとなる。

3)騒音規制対応
騒音規制対応によりマフラーの大型化、遮音材の追加等により車両重量が増加することにより燃費に影響が生じることとなるとともに、マフラーの大型化・改良により排気圧力が増加し、排気ガスの排出抵抗が増すことによる燃費への影響が見込まれる。

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