[ECCJ]
平成11年8月12日
財団法人 省エネルギーセンター
会長 那須 翔

全国の工場からの排熱量を推定

=全国の工場からの有効排熱量は全国70%世帯のエネルギー消費量に相当=

(財)省エネルギーセンターは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託を受けて全国の工場から排出される利用可能排熱に関する推定モデルを作成しました。
 この事業は、工業技術院のニューサンシャイン計画の広域エネルギー利用ネットワークシステム技術開発(エコ・エネルギー都市プロジェクト)の一環として実施したもので、都市周辺に賦存する低温の未利用排熱を回収、輸送・貯蔵し、利用することにより、省エネルギー、低環境負荷型のエネルギー都市システムの構築に資することを目的としています。
本推計モデルを用いて、全国ベースで工場排熱の量、質、発生環境に関するアンケートを実施し、調査結果から利用可能排熱(100度C以上の排ガス温度、40度C以上の排温水温度、固体熱)の量、質の推定を行い、この結果、以下の点が明らかになりました。

(1) 工場排熱は業種により特徴を持ち、その発生量は購入エネルギー量と良い相関を示した。
(2) 製造業では購入エネルギーの約8.7%が利用可能排熱と推定され、製造業に発電所及び清掃工場等を加えた全国での利用可能排熱量は年間32万テラカロリー(原油換算3,500万キロリッタ(ドラム缶1億7千5百万本相当)、国内原油処理量の約15%、3,000万世帯(全世帯数の70%)のエネルギー消費量)と推定された。
(3) 排熱量の多い業種は、電力、鉄鋼、化学で、それに続いて清掃工場、石油精製、紙・パ、窯業となっており、以上の業種で全体の90%を占めた。
(4) 排熱の種類としては、排ガス顕熱として排出されるものが圧倒的に多いが、利用度の高い温水、蒸気として排出されているものもかなりの量存在した。
(5) 本推計モデルにより、特定地域での産業排熱の推定が可能となった。
(6) この排熱の5%が有効に活用され化石燃料に代替されるとすると、約125万トンのカーボン換算二酸化炭素排出量の削減となり、これは気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で約束している目標削減量(1997年時点で約1200万トン)の約10%に相当する。

1.検討の背景と狙い
 昨今の地球環境問題の中で、大気中の二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化の問題は、産業・民生部門における省エネルギー対策の重要性を益々認識させる状況になってきております。
 通商産業省工業技術院が推進しているニューサンシャイン計画では、これまでの個々のプラントにおける省エネルギー技術の開発に加え、都市システムや社会システムの中で総合的システムとしての省エネルギーを達成することに努力が払われてきております。すなわち、本検討の根源である広域エネルギー利用ネットワークシステム開発(エコ・エネルギー都市)プロジェクトでは、これまでの都市のエネルギー・資源システムを抜本的に改革し、より効率的な都市のエネルギーネットワーク構築の実現を追求しております。
 この様なシステムを実現するためには、2つの面から推進する必要があります。すなわち、広域ネットワークにおける熱の需要箇所における消費に関する問題と、熱源と熱需要地を結び熱を効率的に運用する技術及びシステムの問題を解決することです。エコ・エネルギー都市プロジェクトでは主として後者に関わる要素技術の研究を進めていますが、この要素技術を活用したシステムを実現するためには利用可能な排熱が実在することが基本的な前提となります。本検討はネットワークシステムを構築できる熱源が具体的にどの程度、どの様に賦存しているかを定量的に提供することを課題として行われました。

2.調査・検討の方法
 これまで、特定地域に限定した排熱の実態調査や、エネルギー多消費産業の幾つかの工場のヒヤリング調査及び文献調査等により未利用エネルギーとしての排熱が推定されてきました。しかし、任意の地域のエネルギーネットワークシステムを構築するには、任意の地域におけるより具体的且つ現実的な排熱を推定する必要があります。
 このため、全国のエネルギー多消費業種から1万工場を選定し、更に任意に選定した火力発電所、ガス工場及び清掃工場数百を加えてアンケート調査を行いました。アンケートでは、工場の概要、稼働状況、購入エネルギー、及び工場の保有するプロセス毎の設備の運転状況と排熱の排出状況等について調査しました。調査排熱の対象は利用可能性を考慮して、100度C以上の排ガスと40度C以上の温水及び固体排熱としました。
 このアンケートに対して30%に上る回答が得られました。回答内容を市販データソフトを用いてデータベース化し、業種毎、プロセス毎の解析を行い、全国の利用可能排熱の推定を行いました。

3.得られた成果
 得られたアンケートデータから全国又は任意の地域での工場排熱量の推定を行うため、排熱が他のどの様なデータと相関が強いかを解析したところ、購入エネルギーとの相関がほぼ全ての業種で最大であることが明確となりました。この関係を更に細業種分類で整理すると、更に推定精度が向上することが分かりました。
 この推定方法を用いて全国の排熱量を推定しますと、年間約32万テラカロリー(1012カロリー)となり、全国購入エネルギーの10%弱となりました。この値は原油換算で3,500万キロリッター、国内原油処理量の約15%に相当します。排熱の多い業種は、電力、鉄鋼、化学等で、それに続いては清掃工場、石油精製、紙・パ、窯業等となっており(参考図:業種別全国排熱量参照)、以上の業種の排熱で全体の90%を占めています。因みに、全国の1世帯の平均年間熱需要は約11,000メガカロリー(10カロリー)ですので、32万テラカロリーは3,000万世帯(全国4,300万世帯の70%)の熱需要量に相当します。
 また、排熱は業種毎に特徴を持ち、電力は排ガスとして排出される熱量が極めて多いが200度C以下の排熱が殆どで、鉄鋼、化学では排ガス排熱の総量が多く且つ高温排熱も相対的多くなっています(参考図:排ガス温度の業種別特徴)。
 この排熱からどの程度熱回収できて有効に活用できるかは更に検討が必要ですが、例えばこの5%が有効に活用され化石燃料に代替されるとすると、約125万トンのカーボン換算二酸化炭素排出量の削減効果となります。

4.今後の予定
 本調査・検討は国内の工場排熱の発生実態を明らかにして、需要先との広域エネルギー供給システムの可能性検討をより現実的なものとすることに有ります。今後は要素技術により回収・利用可能な排熱源の具体的所在、質、量の明確化とその任意地域での賦存実態を提供するデータベースの作成を行い、特定地域での産業排熱の推定を行って広域熱供給システムの検討に活用していきます。

5.調査、検討体制
 NEDOから(財)省エネルギーセンターに研究委託されております。

(問い合わせ先)
(財)省エネルギーセンター エコ・エネプロジェクト室 佐藤文廣
 FAX 03-5543-3021 E-mail fumisato@eccj.or.jp

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