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油拡散及び油回転真空ポンプの消費電力削減
セイコーエプソン株式会社 伊那事業所
水晶デバイス事業部
● テーマの概要
   水晶デバイスの製造には油拡散と油回転真空ポンプによる真空装置が多数稼動しており、下記の着眼点で省エネルギー化に取組んだ。
(1)油回転真空ポンプの負荷に応じたインバーター制御
(2)油拡散真空ポンプのヒーター部温度制御及び断熱対策

● 当該事例に対する実施期間  平成12年4月 〜 平成13年8月 現在継続中
   企画立案の期間  平成12年4月 〜 平成12年6月
 対策の実施期間  平成12年9月 〜 平成13年8月 現在継続中
 対策の確認期間  平成12年9月 〜 対策時に都度実施

●事業所の概要
  生産品目  水晶振動子、水晶発振器、水晶デバイス応用製品
従業員数  785名
エネルギー年間使用量(平成12年度実績)
 電力  14,033,844kWh
 A重油  760kL

●対象設備の工程
   水晶振動子は、その振動モードによって水晶の結晶軸に対して所定の角度で切り出され形状加工される。 加工された水晶振動片は励振電極を形成された後、パッケージに実装され所望の周波数になるよう調整される。 周波数の調整には励振電極に質量を付加する方法と減ずる方法があるが、今回の取組み事例は質量を付加する真空蒸着機の真空ポンプの改善に関するものである。

図−1 シリンダー型水晶振動子の組立工程

1.テーマ選定の理由
   人類の活動が地球環境に大きな影響を与えるようになった現在、消費エネルギーの削減は人類全体の課題である。 当社でも2010年までに1997年に対してエネルギー使用量を40%にする目標が立てられ、多方面からの効率的エネルギー使用の検討がされている。 セイコーエプソン株式会社伊那事業所でも、過去継続的にエネルギー有効利用の活動を行なってきたが、1998年度から当社目標をめざして、新たに、局所照明、空調温度設定の適正化、省エネタイプPCへの切り替え、エネルギー供給インフラの効率化、建物の断熱化、省エネ型クリーンルームの研究、適用等を進めて来た。
 消費エネルギーの中でも大きな比率を占めているのが生産設備である。 生産設備の省エネルギーは技術革新をしなければ当社目標を達成できない。 また、現在稼動中の機械をすべて捨てて新しい設備に更新することは現実的に不可能である。 そこで、現在稼動している生産設備の中でも消費エネルギーのウェイトの大きな真空装置、特に、伊那事業所とその関連会社で多く使われている油拡散真空ポンプを使用した真空装置の省エネルギーに取組んだ。
 伊那事業所は、当社水晶デバイス事業の新製品開発、技術開発の拠点であり、そこで開発された技術が、他事業所、関連会社、協力会社、海外事業所で使用されるため1事業所の効果に留まらない。

2.現状の把握及び分析
  1)現状の把握
 伊那事業所は、水晶原石から機械加工やフォトリソ技術を用いて時計用の音叉型振動子やCPUのクロック源としての厚みすべり振動子等の振動片を加工している。 振動片には、電界をかけるための電極が必要であり、AuやAgの貴金属をスパッタリングや真空蒸着機等の真空装置を用いて成膜している。 組立工程においても周波数調整やパッケージングの封止工程に真空装置を使用しているなど工程全域で真空装置は随所に使用されている。
 生産設備の電力使用量は図−2のように事業所全体の使用量の52%を占める。
 まず、事業所内にある真空装置を全て拾い上げ消費電力を測定しマップを作成した。 真空装置に使用される真空ポンプの形式も油拡散真空ポンプからクライオポンプやターボ分子ポンプなど多種多様である。 その中で、油拡散真空ポンプを使用した真空装置の電力使用量をまとめてみると生産設備全体の使用量の7.3%、事業所全体の使用量の3.8%を占めることがわかった。

図−2 事業所全体の電力使用量に対する生産設備の割合
 油拡散真空ポンプを使用した真空装置を機械別に分類してみると図−3のようになり、大半が周波数調整機とアニール炉で占められている。 今回は、この中でも最も小型の6インチ油拡散真空ポンプを使用している周波数調整機(Aタイプ)について改善の取組みをおこなうことにした。 Aタイプは真空チャンバーがガラスベルジャーから成るバッチ処理型の比較的コンパクトな装置であり、伊那事業所の他、マレーシアや中国の海外製造拠点などでも多数の装置が稼動しており、モデル装置として適当であると判断した。
図−3 油拡散真空ポンプを使用した真空装置
 この蒸着式周波数調整機(以下DFm/cと略す)の消費電力は、蒸着プロセスを含めておよそ2kWhである。 DFm/cのユニット別に消費電力を調査した結果が図−4である。 蒸着自体の電力よりも、油拡散真空ポンプ(以下DPと略す)と油回転真空ポンプ(以下RPと略す)による消費電力の割合が大きく全体の約3/4を占める。 真空ポンプの消費電力の削減ができれば、周波数調整中のみならず待機時の電力削減に効果をあげることができる。
図−4 DFm/cのユニット別消費電力の割合
2)現状の分析
 DFm/cはRPとDPの組み合わせで大気圧から高真空までを排気しており、排気系は図−5のように構成されている。
 約30リットルの真空チャンバーを大気圧から5〜10Pa前後までRPで粗引きし高真空側をDPで本引き排気する。 到達圧力は10−3〜10−4Paレベルである。 本引き中RPはDPの排気側の背圧を抑えるためにバックアップポンプとして作動している。 真空チャンバー内には抵抗加熱方式の蒸着源、デバイスがセットされたリングを順送りする搬送機構、周波数を測定するコンタクト機構、及び蒸着量を制御するシャッター等の周波数調整に必要な機構が組み込まれている。
 油回転真空ポンプにもいくつかの形式があるが、伊那事業所で使用しているものは回転翼型(ゲーテ型)であり、ポンプの構造を図−6に示す。
 ローターについている2枚の翼板がモーター回転の遠心力によってシリンダーに押し付けられ翼板、ローター、シリンダーで囲まれた空間の容積変化により気体輸送をおこなうポンプである。 排気速度特性は吸入圧力の低下とともに排気速度は低下し、到達圧力に近づくにつれて排気速度はほとんどゼロになる。
 油拡散真空ポンプの構造を図−7に示す。油蒸気の噴流を利用して気体分子に運動量を与え排気口側に移送して排気する。 ヒーターにより蒸気を発生させるボイラー、蒸気を噴出するノズル及び噴射させた蒸気を凝縮させる水冷壁で構成される。 超音速で噴出した蒸気分子は、噴流方向の速度成分が極めて大きく、気体分子は噴流にはね飛ばされる。 各ノズル段と容器とのクリアランスは徐々に小さくしてあり、これにより圧縮作用が起こりポンプの働きをする。
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3.活動の経過
  1)取組み体制
 2000年度は生産設備の効率化を進める部門方針を受けて、生産設備の主管部門である生産技術部より4名のメンバーで編成し、真空ポンプの改善については1名の専任体制とした。 技術的なサポートを本社部門にもお願いし、まずは、試行錯誤で取組むことにした。
2)目標の設定
 対象真空装置について第1Stepの改善目標は、エネルギー削減率を現状の30%に設定した。
3)問題点とその検討
3)‐1エネルギーロスの課題
(1) RPは最も負荷の大きい大気圧下からの排気を受け持っているが、数十秒で大半の大気を排気してしまう。 DFm/cにはモーター動力0.75kWのRPが採用されており、負荷により動力特性が変化するが4〜7×10Pa付近が最大所要動力となる。 しかし、この差は10%程度であり高負荷時もバックアップポンプとして作動しているときも同じ商用周波数で回転しており無駄があるため、負荷条件によって最適な周波数を設定できるようにすれば、消費電力が削減できると考えた。
(2) DPは1kWのヒーターを装備しており、現状は電力一定の連続通電であるが、使用する拡散油の蒸気圧特性、冷却水温や流量、及びヒーター取付け具合の違いにより加熱温度には最適条件があると考えられる。 また、ヒーターは大気中に露出しており放熱しているため、ヒーターの効率を向上させることが可能である。
3)‐2省エネ改善上の真空ポンプの課題
(1) RPの回転数を下げた場合の、翼板とシリンダーのシール性、潤滑性、及びDPの排気側の背圧を保持する能力が確保できるか。 これについては排気量とチャンバー圧力のQ−P線図からある程度の想定は可能であり実機で確認する。
(2) DPのヒーター温度をどこまで下げられるか、その場合の排気速度と到達圧力はどのように変化(悪化)するのか。 拡散ポンプの投入パワーに対し、排気速度と到達圧力は最良値を有するが臨界背圧はパワーに比例する。最良値がどこにあるかは誤差要因が大きく算出しにくいため、これについても実機で調査する。

4.対策の内容
  1)DPヒーター部の断熱対策
 ヒーターは電熱線を仕込んだアルミ鋳込み型のものであり、表面温度は400℃に達する。 外周が露出しているため、大気中に放熱しておりエネルギーロスになっているとともに空調機の熱負荷にもなっている。 まずは、この対策としてヒーター部を断熱することにした。 断熱材に要求される項目は、耐熱性、クリーンルームで使用するため低発塵性、及びポンプのメンテナンス時に容易に取り外しができることである。
 ガラスクロスをフッ素コートガラスクロス生地で内包した断熱材をヒーターに合わせて縫製しマジックテープで脱着できるようにした。 これにより要求項目を満足し電力削減効果も図−8に示すように、ヒーター温度に関係なく約8%の改善が可能になった。

図−8 油拡散真空ポンプの断熱と電力量

図−9 油回転真空ポンプの回転数と電力量

図−10 油拡散真空ポンプヒーター温度と圧力

図−11 油拡散真空ポンプヒーター温度と電力量
2)RPのインバーター制御
 前述のようにRPは負荷に応じてモーターの回転数を制御する必要があり、モーターは6極インダクション方式のため、インバーター(以下INVと略す)を採用することにした。 粗引き時は60Hzで動作し高真空側になったところで適当な周波数に下げるという考えである。
 インバーターでRPの回転を変えた場合のRP単体の電力量を図−9に示す。 60Hzに対して40Hzで69%、30Hzで55%まで消費電力(RP単体)を抑えることができる。 本引き状態において、周波数を30Hzまで落としても到達圧力は変化せず、バックアップポンプとしての機能は損なわれない。 RPとDPのQ−P線図を見る限り30HzでバックアップしてもDPの臨界背圧を超えることはないが、シール性等のメカニカルな限界周波数が不明確なため第1段階としては40Hzが適当と考える。
3)DPの温度制御
 DPの個体差に応じた熱量の供給方法は、ヒーターのon/off制御、または、PDI制御が考えられるが、温度設定が容易にできるPDI制御回路を組み込み真空の評価をおこなった。
 ヒーター温度(相対比較)と圧力の時間変化を図−10に示す。 加熱温度を下げることにより真空引き能力が悪くなると予想していたが、今回の実験では図のように真空引き時間、到達圧力ともに向上した。 油蒸気の噴出量は投入パワー(拡散油に伝達された熱量)と単位質量当たりの蒸発量に比例しポンプ作用となる成分が増加するが、温度上昇はチャンバー内への拡散も増えると考えられる。 これにより、使用する拡散油の蒸気圧や熱の伝達具合により最適な加熱条件がある。
 ヒーター温度を変えた場合(RPの電力量含む)の電力量を図−11に示す。 ヒーター温度の減少に伴って消費電力を抑えることができる。
4)真空ポンプの動作シーケンス
 RPは排気の負荷に応じて回転数を制御する必要がるため、図−12のようなタイミングチャートで作動するよう改善した。
 RV(粗引き弁)が開くとRPは60Hzで回転し粗引きを行なう。 所定の圧力に達しMV(本引き弁)に切替わり高真空センサーがonしたところで40Hzに回転を下げる。 改造が簡単に済むように高真空センサーの出力接点を直接INVの入力信号に入れて回転数が切替わるようにした。
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5.対策後の効果
   m/cNo.1〜6はDPヒーター部の断熱対策とDPの温度制御を実施し、No.7〜11はさらにRPのINV制御を行なった。 対策の終了したDFm/c十数台の対策前後の消費電力データー(蒸着プロセス含まず)を図−13に示す。
 DP最適温度はm/cごとに多少異なり、この違いが消費電力の差異になっているが、平均の電力削減量は1台あたり0.7kWhであった。 これは前述のように周波数調整中、及び待機時ともに削減される。 これにより、m/c全体の消費電力に対しRP+DPの割合は図−4の約3/4から約1/2に低減する。 真空装置は一般的に昼夜運転されるため、それを前提に年間の削減量を算出した。 図−14のように伊那事業所対象真空装置全体では、年間271,000kWh、海外製造拠点を含めると、図−15のように年間2,170,000kWhもの電気量を削減することができる。 投資回収計算を行なってみると国内の場合、INVや温調器などの費用13万円に対して1台あたりの年間電力削減金額が7.7万円であり、比較的短期間の約1.7年で回収でき投資効率は良好である。
 対策を進める中で予期せぬトラブルが発生した。 DFm/cNo.1〜6は32.7kHzの音叉型振動子の周波数調整に使用しているが水晶振動子を励振させるための発振回路にノイズがのってしまい周波数が正確に計測できないというトラブルである。 INV側の対策としてリアクトルの接続やノイズ発生の少ない機器への変更を行ない、発振回路側としてはシールドボックスに入れる等のノイズ対策を実施したが周波数バラツキは完全には解決できていない。 No.7〜11のDFm/cはMHz帯域の厚みすべり振動子用であり、ノイズ周波数と計測周波数が大幅にずれているので、周波数カウントには影響していない。 したがって、m/cNo.1〜6はDPの断熱と温度制御の2項目のみの対策であるが最も消費電力の割合が高い部分の改善であるため、削減効果に大きな影響はない。

図−13 DFm/c対策前後の電力量と削減率

図−14 伊那事業所対象真空装置の電力量削減結果

図−15 海外製造拠点を含む対象真空装置の電力量削減予測

6.まとめ
   削減効果は当初目標の30%に対し約47%と予想以上の効果を上げることができた。 伊那事業所全体の2001年度のエネルギー削減目標は前年度使用実績に対して7%の削減であり、対象の真空装置について今回の取組みを進めることにより約1.9%の削減効果が見込まれ、断熱やINV制御など省エネルギー活動を進める上での基本技術がうまく応用できた。

7.今後の計画
   伊那事業所にある対象真空装置については、6インチ油拡散真空ポンプが終了し現在10インチの装置に取組んでおり、残りの装置について2001年度内には改善を終了させる。 また、新規装置については、今回の取組み内容を標準の共通仕様書に盛込み購入段階から省エネルギーに対応した装置を購入していく。 生産拠点が、海外にシフトしていく流れの中で対象装置の保有台数も圧倒的に海外製造拠点の方が多く、昨年度から支援を始めている。 現在までのところ、対象装置のマップ作りとモデル装置の改善が終了したところであり、海外製造拠点主体の活動が計画通り進むようバックアップをしていく。
 油拡散真空ポンプは形式の古いポンプであり、油蒸気による汚染という欠点をもっているが、構造がシンプルであり比較的容易に高真空が得られる等のメリットも大きく、水晶デバイス業界においては、まだまだ、主力として活躍していくポンプである。 国内には相当数の油拡散真空ポンプが稼動していると思われ、一つの会社に留まらず水平展開がされれば、大きなエネルギー削減につながる。 現在、真空装置メーカーと共同推進を行なうべく検討を始めている。

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